2010/03/27 秘宝館提出用SS


 怪奇!オペラ座の藩王!!
~とある詩歌の援護射撃~




蒼く輝く満月の夜。
岩崎仲寿はなにをするでもなく、空を見上げたまま佇んでいた。
とはいえただ暇を潰していたわけではない。その場所で人を待っていたのだった。
ちなみにその場所というのは、詩歌藩国の首都イリューシアの中でも最大級の劇場の前。
あたりを行き交う人々はいかにも品の良さそうな、いわゆるセレブな身なりの人間ばかりだった。
そんな中では岩崎のような貧乏人は浮いてしまうのではないかと思いきや、さにあらず。
彼にしては珍しく、その姿は正装であった。
艶消しのタキシードにワインレッドのリボンタイ。
その身なりと、彼の癖でもある薄い微笑みが合わせられると、さながらどこかの青年実業家が恋人を待っているようにも見える。

それなりに様になっているのであるから、女性から声をかけられてもよさそうなものであるが、そこは女たらしと呼ばれる男の本領発揮。
近づこうとする女性へすかさず視線を合わせ、笑顔一発。
キラキラ輝くスマイルでナンパ攻撃を回避していたのだった。

そんな絶対不可侵領域を守り続けていた岩崎に、声をかける女性が一人、二人、いや三人。

「岩崎くん、お待たせー!」
「やぁ、こんばんは」

やってきたのは岩崎経、駒地真子、森晴華の三人だった。
少しだけ小走りに、それでもずいぶんあわてた様子で岩崎のもとへと駆け寄ってきた。

「はー、はー。遅れちゃってごめんなさいです」

息を切らしながらそういう経にいつもの微笑みを返しつつ、岩崎は手首を返して腕時計をちらりと見た。
たしかに2分ほど約束の時刻を過ぎている。
それを確認した岩崎はなにくわぬ顔で、逆の手を腕時計に添えた。
いかにも、ちょっと時計が見にくいなぁ、といった表情で時計のリユーズをひねる。時刻が2分、巻き戻った。

「大丈夫、時間ぴったりだよ」

笑顔でそう告げる岩崎に、三人はほっとした表情で答えた。
それを見て岩崎はひとつ頷き、もう一度うれしそうに笑った。

「よかったー。 でも、開演の前に集まる予定にしておいて正解でしたね。 ギリギリだったら大変でした」
「そうですね。 いい運動にはなりましたけど」

経の言葉を聞いて、森がそう合いの手を入れる。
頬が赤いのは急いで走ってきたせいだろう。
思い出したようにおなかに手を当てて
「これですこしはへこむかな……」
と真剣に言っているのを見て、駒地は楽しそうに苦笑した。

「いやー、じつは今日のことがすごく楽しみで、昨日はあまり眠れませんでした!」
どーん! と言い放った経を見て、岩崎は今日の集まりのきっかけを思い出していた。

/*/

それは、援護射撃のひとつだった。
ある晴れた日、岩崎のもとへ一通の手紙が届いた。
中身は詩歌藩国で開かれるオペラのS席チケットが二枚、そして小さな便せんが一枚。
そこには美しく踊るような文字でただ一言、楽しんでおいで、とだけあった。
差出人は、これまた優雅な筆致で「九音・詩歌」と書いてあった。

/*/

その後、経を誘ってオペラの話をしたところ、駒地と森にも同じ内容の手紙が届いていると知り、四人は一緒に劇場へ向かうことになったのだった。

しかし当日になって、王からの使いと名乗る者たちがやってきて、四人を別々の場所へと連れていった。
岩崎が連れてこられた場所は、藩国内でもっとも高級な紳士服店だった。

そこで岩崎は、用意されていたタキシードに着替え(いつ寸法を測定したのかは不明だが、あつらえたようにぴったりだった)美容師に髪を整えられ、ついでに薄い化粧までされた。

そして最後に劇場までの地図を渡され、女性はもう少し時間がかかるので先に行って待っていてほしいと言われてしまった。

その後、劇場前についた岩崎は、月を眺めて30分ほど時間を潰しつつ、三人がやってくるのを待っていたのだった。

/*/

「まぁ、こんな機会はそうないだろうしね。 それにしても……」

あらためて三人の姿をゆっくりと観察する。

イブニングドレスというやつだろうか。
受ける印象はみな違うが、華やかな雰囲気は三人とも共通していた。

駒地は岩崎のタキシードと同じ黒を基調とした、おとなしい色合いのドレス。
北国人の白い肌と、さりげなく持ったグレーのハンドバックが引き締まった印象を与えている。
一転して、森は華やかなオレンジのドレスを着ていた。
ドレスに合わせた黄色いイブニングケープが愛らしい。
そしてひときわ目を引くのが経の服装だった。
薄いピンクの布で織られたそれは、素人である岩崎の目にも違いがわかるほどに、さきほどの二人のものよりも手間がかかっている品に見えた。
それは駒地と森のドレスが安っぽいということではなく、経のドレスが最高級品であるということのようだった。
ちなみに、普段の経の髪はショートであるが、今は付け毛をして背に届くほど長くなっている。
いつかの春の園で見たのと同じように長く白い髪と、そこに編み込まれた生花はドレスによく映えていて、まるで結婚式の花嫁のようだった。

「うん。 よく似合っているよ」
「えへへ、ありがとう。 スタイリストさんがすごく気合いを入れてメイクしてくれました」

おかげで時間がかかっちゃったんですけど、と言いながら経はえへら、と笑った。
どうにもしまりがない、とも言える顔だったが、まぁ、なごむ笑顔ではあった。
気にした様子もなく微笑み返す岩崎。
彼にしてみれば、むしろその飾らない笑顔にこそ価値があるのかもしれなかった。

そんな二人の様子を見て、うんうんと満足な駒地。
しかしとなりの森はといえば、眉をよせて浮かない顔をしている。

「あれ、晴華ちゃんどうかしたの?」
「あ、うん……私たち、一緒に来ちゃってよかったのかなぁ、って思って」
「? ええと、ごめん。 どういう意味で?」
「なんていうか、もしかしてデートのじゃまなんじゃないかなって」
「え。いやぜんぜん。 みんな一緒のほうが楽しいですよー」

気にしないでくださいー、と言って経が笑う。
彼女がいいなら、僕もかまわないよと岩崎が続く。
ここでなんら気にせず笑顔を返せるところは彼女の美徳と言えよう。
それでも気にしたように困った顔の森を見て、岩崎が話題を変えるようにしゃべりだした。

「そういえば、森さんとはメタルリーフの森で会って以来かな」
「あ、そうですね。 あの時はパンありがとうございました。 おいしかったです。すごく」

ひどくまじめにお辞儀をする森。
思わず定規を当てて角度を確かめたくなるような、90度近い腰の折り方だった。

「ああ、パンはぼくもよくもらうよ。 おいしいよね」
「うわー。 て、照れます」

思わぬ事態に顔を赤くする経。
春も近いとはいえそれなりに寒い中だったが、頬の火照りはいかんともしがたく、両手で押さえる以外に冷却手段はないようだった。

そんな様子を見守っていた駒地は、まるで我が子を見守る母親のようにうれしそうにうんうん、とひとしきり頷くと

「さ、そろそろ劇が始まる時間ですよ。 ひとまず中へ入りましょう」

と、引率を開始したのだった。

/*/

「ねぇ、お聞きになりまして? どうやら今日らしいですわよ」
「まぁ、本当に!? なんて運がいいのかしら……! ああ、神様ありがとうございます!」

劇場内の通路を歩いていると、すれちがった婦人たちの会話が聞こえてきた。
断片的にしか聞こえてこなかったが、どうやら今日はなにか特別なことがあるらしい。
いったい何が……と考えていた岩崎の思考は、そこで中断されることになった。

「到着ですね。 この部屋みたいです」

森が歩みを止めてそう言った。
受付で渡された鍵を使い、中へ入る。
はたしてそこは、ひどく見晴らしのいい部屋だった。
劇場の中を隅々まで見渡せる広さ十畳ほどの部屋で、赤い布張りの高そうな椅子が四つ置いてある。
テーブルにはオペラグラスが置かれており、劇を鑑賞するための配慮がされてあった。
劇場の最上階に位置するその部屋は、ランクでいえばウルトラスイート。
四人には知るよしもなかったが、値段を聞けばめまいがしそうなほどの高級席だった。
ちなみに、演劇を鑑賞するためにぽっかりと空いた穴には窓がない。
これはある意味で当然だが、オペラは劇を見るものであると同時に、歌を聴くためのものでもあるからだ。
歌い手の声を遮るようなものは極力排除し、声が反響してよく通るよう、劇場の建材にまで十分な注意が払われていた。

この劇場は、おおざっぱに言えば半円の形をしている。
直線の部分が舞台、面積にあたる部分に通常の客席。
そして曲線の部分にはたくさんの個室席があり、舞台側から見ると壁に無数の穴が空いているため、まるで石器時代の洞穴のようにも見える。
とはいえ、その個室席の中にいるのは、野蛮な原始人とは対極に位置する人種がほとんどではあるのだが。

「そういえば、劇の演目はどんな話なんだい?」
「えーと、たしかパンフレットには『護民官の女性と王侯貴族の身分違いの許されざる恋』って書いてあったかな」

内容を思い出すように駒地が言う。
事前に予習してきたらしい。

「おおー。 なんだか典子さんみたいですね」

護民官という部分に反応してか、経がそう言った。

詩歌藩国において、護民官という職業には特別な意味があった。
大昔から国を支えてきた大人物、星月典子の肩書きであったからだ。
国を興した詩歌藩王に並んで、国民の誰もが知る有名人である。
そのためか、この国では子を護民官にしたいという親はなかなか多い。
たとえるなら、宇宙飛行士になった有名人の出身地で子供たちに将来の夢を聞いた時、宇宙飛行士と答える子供が多いことと同じような感覚だろうか。
国を挙げて押し進めている音楽産業と並んで、将来なりたい職業アンケートの二大巨頭なのだった。
 
「なるほど。おもしろそうじゃないか……ああ、そろそろ始まるみたいだよ」 

すこしづつ照明が落とされ始めた様子を見て、岩崎はオペラグラスを三人に手渡した。

/*/

劇は滞りなく進んでいった。
 
しがない庶民出の護民官である少女と、貴族である男の出会い。
一目で恋に落ちた二人は逢瀬を重ね、思いを募らせていく。
しかし男の許嫁である貴族の娘が仕掛ける罠や、両親の反対などもあり二人の仲は引き裂かれてしまう。
しかし、愛の前に敵はなかった。
通りすがりを自称する吟遊詩人や、いきつけの喫茶店のマスターなどの協力を得て、二人は次々と障害を打ち破ってゆく。
そして残るは二人のキスシーンを残すのみとなり、物語はグランドフィナーレへ・・・。

といったところで小休止が入り、劇場の明かりが元の光量を取り戻す。
そして幕がいったん閉じよう、としたところで、どこからか不思議な声が聞こえてきた。


  ハーッハッハッハ……

                       ハーッハッハッハ……

  ハーッハッハッハ……

                       ハーッハッハッハ……


謎の高笑いは劇場内を反響し、どこから響いているのかよくわからない。
観客はざわざわと騒ぎだし、声の主を探すようにあたりを見回している。

「え、えーと、なんでしょうこれ。 演出ですかね?」
「いやぁ、そういう雰囲気じゃないねぇ」

椅子から立ち上がり、バルコニーから身を乗り出すようにしていた経に、岩崎は答えた。
どうにも様子がおかしい。なにか予定とは違うことが起こっているような、そんな雰囲気だった。

そんな時。すべての照明が落とされ、劇場は闇に包まれた。

「レッディーーーース!エン、ジェンッットルメンッッ!!!」

突如、大きな声が響いた。
さきほどの高笑いと違い、今度ははっきりと位置がわかる。
舞台の中央、ちょうど四人のいる個室から真正面の場所だった。

一本のスポットライトに照らされて立っていたのは、仮面をつけた男だった。
白く艶めかしい、磨かれた石膏のような仮面で顔の上半分を覆った男。
声の調子からして年は二十代のなかばだろう。
全身を黒のタキシードに包み込み、大きなシルクハットをかぶっている。
白く長い髪から男は北国人だとわかったが、それ以外のことはまったくわからなかった。
口元に浮かんだ余裕たっぷりの微笑みからは、揺るがぬ自信が感られた。

「今宵は我が至高の舞台へようこそ。 楽しんでくれているようでなによりだ」

仮面の男は芝居がかった口調で朗々としゃべりだした。
観客の様子を見て楽しんでいるような、からかっているような、不思議な喋り口だった。

「しかし、今回の脚本はどうだろうか? なにかが足りないと思わないかな? そう、悲劇、悲哀、悲しみだッ!! 恋とは障害があってはじめてかがやくモノ。 絶望と後悔こそが愛を育む唯一の糧なのだから!!」

狂ったように叫びながら男はバサリとマントを広げた。
そして男は大勢の観客の中でただ一人を見つめていた。
岩崎にそれがわかったのはまったくの偶然だったが、それはほんの一瞬だけ遅かった。

仮面の男が見つめていたのは、岩崎経その人だった。

「それでは、劇をはじめよう」

ちいさくつぶやいたその直後、男は高く跳躍した。
評価値にして40はあろうかという飛び方だった。
遠く離れているはずの個室席まで一直線に飛んでくる。

「いけない! はなれ」

はなれて、と岩崎が言い終わる少し前に、仮面の男は四人のいる席へと侵入していた。
大きく目を見開く岩崎。
経はといえば、仮面の男に抱きかかえられたまま、わけもわからず男と岩崎を見比べていた。

「あ、あれ? つかまっちゃいました?」
「ははは。 大丈夫だよお嬢さん。 ちょっとつき合ってもらうだけだから」

そのまま男は身を投げるようにして部屋から出ていった。
ほんの一瞬の出来事で、駒地と森は事態を把握していないまま状況は終了してしまった。
真っ先に岩崎は部屋を飛び出していく。

舞台の上では、また事態が動こうとしていた。

/*/

舞台の上へと男は舞い戻り、さきほどと同じようにスポットライトの光を浴びている。
わずかに違うのは、舞台袖に体育座りした経がいることだろう。
逃げることもなくそうしているのは、さきほど男に「すぐ終わるから、ちょっとここで待っててね」とお願いされたからだった。

「さぁ、お待ちかねのショーのはじまりだ。 今宵、姫君を賭けて戦う勇気あるものは名乗りを!!」

大きく声を張り上げる男の問いに答えたのは、とても静かな声だった。

「岩崎仲寿」

舞台の袖、経とは逆の位置から岩崎があらわれる。
ちなみに、男に気づかれないうちに経を助けようとした岩崎だったが、経のいる側の舞台袖には鍵がかかっていて入れなかった。
どうやら男はどうしても岩崎を舞台に上げたいらしい。

それを見て男は心底うれしそうにうんうん、とうなずいた。
「それでこそだ、すばらしい。ブラボーだ、ハラショーだ。最大級の賛辞を送ろう」
「そんなものはいらないよ。 彼女を返してもらおう」
「ふむ。 ことわると言ったら?」
「ちからずくでも」
「それでいい。 男子たるもの、そうこなくてはね」

男は手品のように、どこからともなく二本の剣を取り出した。
フェンシングで使うような、細身の長剣。
刃の殺されていない真剣だった。
片方を岩崎に放り渡す。

「では、始めよう」

青眼に構える仮面の男を見て、岩崎もまた、あきらめたように剣を構えた。
男は剣の手ほどきを受けたことがあるのか、堂々とした美しい構えだった。
岩崎のそれは仮面の男とは違い、背を丸めただらしない格好に見えた。
それも当然で、岩崎には剣を扱う知識などない。
レムーリアでは盗賊のようにナイフを使っていたので多少の扱いを覚えたが、ほとんど我流のようなものだ。
とはいえ逃げるわけにはいかない。
自身の命にも代えられない、大切なものが賭かっているのだ。

そして、戦いが始まった。

/*/

戦いは、苛烈を極めた。

多くの観客が見守る中で、二人の剣劇は長く続いた。
鋼を打ちつけあう無骨な音色だけが響きわたる。
二人の力は拮抗しているように見えて、実際には明確な差があった。
よく見れば、仮面の男は最初の立ち位置からまったく動いておらず、その表情には余裕の笑みが浮かんでいる。
対して岩崎は素早い動きで対抗してはいるものの、必死の表情で攻め続けていた。
その違いは、おそらく筋力の違いだ。
男が着用しているアイドレスがなんなのかは不明だが、わざわざ剣での勝負を挑むくらいである。低物理域向けの白兵戦が得意なアイドレスだろう。
対して岩崎が心に鎧うのは盗賊、魔法戦士、二刀流の剣士、密使である。
近接戦闘に向いているものが揃ってはいるが、それでも筋力の上昇は少ない。
魔法戦士は純粋な白兵よりも距離をとって魔法を使うべきであるし、剣が一本では二刀流もうまくは生かせない。
盗賊の素早さが唯一の救いであるが、密使についてはこの状況では役にたつはずがない。
そのため、筋力の差と密使という荷物を背負った岩崎は苦戦を強いられていた。
特に、剣と剣を合わせた鍔迫り合いの形をとれないことが、岩崎の選択枝を狭めていた。
純粋な鍔迫りの形では筋力の差がはっきりと出てしまう。
そのため、一気に勝負が決まってしまう恐れすらある。
岩崎はそれを避けていた。
しかし、そんなハンデを背負って戦えるほど仮面の男は甘い相手ではなかった。
剣先が徐々に岩崎の体を捉え始める。
わずか十数合の打ち合いで、美しかったタキシードはぼろぼろの布切れへと姿を変えてしまった。
幸運にも傷は浅いものばかりだったが、体中の切り傷からあふれ出す赤い血が、ひどく痛々しく見えた。
二人から遠くはなれた場所で経がぎゃーと叫んでいる。

「はぁ……っはぁ……」
「そろそろ降参かい?」
「いいや。まだまだ」

すっかり憔悴しきった顔で、岩崎はそう嘯いた。
はだけたジャケットとワイシャツのさらに下から、首飾りがちらりとのぞいている。
ドーナツのような形をした、緑色のちいさな猫目石。
お守りかなにかだろうか。岩崎はそれを大事そうに握りしめ、祈るように目を閉じた。

「手荒なことはしたくなかったけれど、そうも言っていられないみたいだ」

次に開いたその瞳には、燃え上がるような決意があった。
ゆっくりと構えを変える。
剣を右手へと預け、左手で空をつかむ。その姿はまるで二刀を構えるているかのよう。

「はったりは感心しないな」

仮面の男が間合いを詰める。
下段からすくい上げるような斬撃を、岩崎は空をつかんだはずの左手で止めた。

「これは、稲妻の指!」
「形勢逆転だね」

男の顔からはじめて笑みが消え、驚愕の表情が浮かぶ。
魔法戦士のちからで絶技を使い、二刀流の剣士としての本領を発揮する。
これこそが、岩崎の全能力が発揮される形だった。
岩崎は稲妻の指を鞭のように振るい、男の剣をはじき飛ばす。
弾かれた勢いのまま、地べたにしりもちをついた男は、あっさりを両手をあげて降参の意を表した。

「一国の王ともあろう人が、冗談がすぎますよ」
「ああ、ばれていたのかい?」

仮面の下からあらわれたその姿は、この国に住む者なら知らぬものはいない人物。九音・詩歌その人だった。

「どうも手加減されていた気はしたんだよね。そうか、ばれてたのかー」
「王殺しは大罪ですよ。国が滅びます……それで、なぜこんなことを?」
「友人の恋路を応援しないものはいないだろう。 それでは不満かい?」

なんとなく納得できない表情を浮かべた岩崎だったが、詩歌の真意は読めなかった。
聞いても答えないだろうことも、雰囲気から感じられた。

「まぁ、いいじゃないか。盛り上がっただろう?」

観客席では拍手がはじまっていた。
突発的なイベントだと思われたのかもしれない。

「音楽院効果もあるし、そう簡単には負けないつもりだったんだけどね。まぁいいか。経さん、こっちへ」

あ、はーいと返事をして経が駆け寄ってきた。
半裸の岩崎を見て、なぜか、照れた。

「おお……。えっと、ケガ大丈夫ですか? 痛くないですか?」
「? 大丈夫だよ?」
「ふむ。 入り口のほうに医務室があるから、彼を連れて行ってあげるといい」
「あ、はい。藩王様ありがとうございます」 

ぺこり。とお辞儀をして岩崎を支える経。
脇から抱きつくように見えて、こんどは岩崎が、照れた。

「ハハハ。いいねぇ、ういういしくて……さて、締めの言葉が必要かな」

詩歌は仮面を付け直し、ばさりと大きくマントを広げた。

「今宵、真実の愛は確かめられた! 若き二人に祝福の拍手を!!」

鳴り響いていた拍手がいっそう大きくなる。
音の波が三人を、そして劇場を包み込んだ。

/*/

「それで結局、なにが目的だったんですか?」
月の照らす夜道を歩きながら、森は岩崎にそうたずねた。
岩崎は経のちいさな手を握りながら、のんびり空を仰いでいる。
「さぁ。たぶん援護射撃だったんじゃないかなぁ。 それとも……」
「それとも?」
岩崎は、となりで歩く経を見た。
「お父さんみたいな気分だったのかもね」
「?」
森と経がはてなを浮かべるその横で、駒地だけは感慨深そうに頷いていた。

/*/

後になってわかったことであるが、劇場での騒動は数ヶ月に一度のペースで行われているイベントであったらしい。
その内容は、観客の中から無作為にカップルを選び出し、仮面の男が女性をさらって舞台上で男と決闘をするというものだったそうだ。
ちなみにこの仮面の男、場を盛り上げるためにも負けてやればいいものを、全力で相手をフルボッコにしてこれまで負けなしだったらしい。
しかしその大人げなさが逆にかっこいいとしてファンがつき、劇場の裏名物として人気を集めていたのだった。

そして、このイベントの企画・実行には政庁の、それもトップクラスの人物が関与しているというのがもっぱらの噂、だそうである。

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