銀内 ユウさんSS №830


『帰り道に二人きりでいちゃいちゃした話』






レンジャー連邦、政庁城付近。
人のいない、さわやかな風の吹く郊外の丘の上。

人通りも少ない、街外れにあるその場所で、草原に腰を下ろした二人組の男女がいた。

一人は、ミリタリールックに蒼いマフラーを巻いた南国人の女性、銀内 ユウ。
あぐらをかいて座ったまま、真剣な表情で竹トンボを飛ばそうとしている。
そんな彼女の様子を、となりで見ている男の名前は銀内優斗。
膝を立てたその上に頬杖をつき、のんびりと成り行きを見守っている。

「んん~~~~っ………てやっ!!」

威勢のいいかけ声とともに、竹トンボの動力源となったユウはぎりぎりまで引き絞った両腕の力を一気にときはなった。
だがしかし、念入りに調整したはずの竹トンボのシャフトと両手の噛み合わせはうまくいっていなかったらしく、大きく空転した竹トンボは1mも飛ばないうちに墜落してしまった。

「ああ~、またダメかぁ」
「力まかせに飛ばしたってうまくいきませんよ。飛行機の操縦と一緒です」

ユウが立ち上がるよりも先に竹トンボを回収した優斗は、竹細工を片手で器用にまわしながら、ゆっくりと戻ってきた。
そのまま、よいしょ、とユウのうしろに腰を下ろす。

「え、えーと、いったい何をしてるのかな?」
「いいからいいから。ちゃんと前を向いててください」

そう言いながら、背中へ覆い被さるように身体を密着させてきた。
さきほど飛ばした竹トンボを手渡される。

「いいですか。肩のちからを抜いて、楽にかまえてくださいね」

竹トンボをにぎる手の上に、優斗の手が重ねられる。
添えられた手は白くてきれいで、ユウの手よりもすこしだけ大きかった。
ユウの左肩に顔をのせるようにして、手元の竹トンボをのぞきこんできた。

両手をこすりあわせるようにして、竹トンボをくるくると回転させる。
ユウが一人で挑戦した時よりもスムーズな動きであるのはたしかだが、そんなことよりも今の体勢というか、密着度合いのほうが気になった。

こう、両手を包んでいる手のひらの暖かさとか、背中から覆い被さるような包み込まれる感じとか、そういうものはまったく期待してはいなかっただけに、嬉しくなった。

「こういうのもいいなぁ」
「なんですか?」
「え。あー、ううん。なんでもないよ?」

ついついくちにしていたつぶやきに問い返され、とっさに平静をよそおう。
いや、正直に嬉しいと告げてもいいのだが、すこしだけ恥ずかしいような気がした。

(真面目に教えてくれてるみたいだし、ちゃんと教わらないとダメだよね。うん)

ひそかにそう考えて、キリリと顔を引き締める。
眉毛の角度もV字型に上方修正して真面目度アップ。
だがしかし。

(でもまぁ、ちょっとくらいはいいよねっ)

まるでダイエットをする人間がポテチに手をのばすかのように、ちょっぴり背中を押しつけつつ、ぐりぐりと堪能したユウだった。

「? 背中、どうかしました?」
「はっ。 しまった、つい楽しんでしまった」
「え?」
「あーえーと。 なんでもないよー。 そろそろうまくできるようになってきたかも」
「ああ、そうですね。 ちょっと飛ばしてみましょうか」

そう言って、今まで回していた竹トンボをさらに激しく回転させる。
両手にかかる力が増していくのに比例して、密着度合いも高まっていく。ほっぺがくっついた。

「いきますよー……それっ!」

かけ声と同時に手をはなす。
同時に、竹トンボは空高くへと舞い上がっていく。
まるで空に吸い込まれていくように、ぐんぐんと飛んでいき、距離がはなれるにつれてゴマ粒のように小さくなってしまった。

「わぁー、飛んだねぇー」
「飛びましたねー」

二人とも首を真上に向けて、飛び去っていく竹トンボを視線で追いかける。
レムーリア製の竹ゆえか、それとも優斗の飛ばし方がうまかったからか、はたまたその両方か。
高々と飛翔した二枚羽のトンボは、なかなか降りてこようとはしなかった。

高い建物などもなく、大きくひらけた空を見て、キレイだなーとぼんやり考える。
ちょうど飛行訓練中か、ラスターチカが飛行機雲をひきながら、のんびりと飛んでいた。

ふと横を見ると、優斗の横顔があった。
真上を向いている関係で、目線の先にはちょうどのどぼとけが見えている。

(なんかおいしそう、かも)

なんの脈絡もなく、ユウはふいにそう思った。
あまり日に焼けておらず、普段は目にしないその部分が、なぜだか急に愛おしく感じた。

あまり深くは考えずに、キスをしてみる。
すこしだけ、舌先に塩味を感じる。薄くにじんだ汗の味がした。

「うわ。いきなりなんですか?」

案の定というか、当然ではあるが、驚かれた。

「い、いやー、なんとなくおいしそうだった、から……」

ごにょごにょと言い訳をしてみる。
歯切れが悪くなってしまうが、自分でもなぜこんなことをしたのかよくわからないのだから、しかたがない。
普段ならここまで大胆なことができるはずはないのだが、なんだか今日はおかしい。
くっつきっぱなしこの状況ゆえか、それとも人の少ない開放的な場所だからか。
いつもよりすこしだけ、積極的になっていたのかもしれなかった。

自己嫌悪にユウが沈んでいると、優斗が額に手を当ててきた。
なぜか優斗自身の額にも手を当てている。

「えっと、どうかした?」
「もしかして、熱でもあるのかなと」
「んー、それはないかな……」
「そうですかー。 すみません、さっきからなんだか様子が変だったので」

なぜか顔が近い。
恥ずかしさで頬は熱かったが、素直に言うのもためらわれたので、ひとまず黙っていることにした。
すると、ふむ、と考え込むように優斗は腕を組んだ。
じっとユウの顔を見つめる。

「な、なに?」
「いや、たしかにおいしそうだなぁと」

そうっと、優斗の手が近づく。唇に触れた。
そのまま優しく撫でられる。
触れるか、触れないかくらいの微妙な加減で、くすぐるように指先が唇の上をすべる。
とてもくすぐったくて、それ以上に心地よい接触だった。
ずっとこのまま、続けていてほしいと思ってしまう。
背中から包まれるように抱きしめられたまま、こうして優しく触れられるというのは、なんだかすごく幸せなことのように思えた。

唇に触れているほうとは逆の手が、ユウの喉へと添えられる。
そのままネコの喉をならすように、かりかりとすこし強めに指が動いた。

歯の根が噛み合わないような、むずむずとした感覚。
同時に胸の奥が熱くなり、ドキドキと鼓動が大きくなった。
恥ずかしさで頬が熱い。きっといま鏡を見たら、盛大に赤くなっていることだろう。

「うーん、こっちのほうがおいしそうかな」
「え、なにが?」

そう言って、優斗は指先の動きを止めて、ユウの首筋に甘く噛みついた。
驚きのあまり、ユウはふひゃ、とかふへ、という情けない悲鳴を上げそうになったが、なけなしの理性をかき集め、なんとか声を閉じこめることに成功した。

だが、完全に悲鳴を殺しきることはできず、しゃっくりの出来損ないのようなおかしな音色をあげることになってしまった。
そのことが思った以上に恥ずかしくて、ユウはぎゅっと目を閉じた。

クスクスという笑い声。
見なくても、優斗が苦笑いしている姿が目に浮かんだ。
恥ずかしさで涙がにじむ。
すると、おなかと額に優斗の手がまわされた。
そのまま強く抱きしめられる。ただじっと、抱きしめられている。
それは、さきほどまでの熱くなるような感覚ではなく。まったく別の、落ち着くような優しさを感じた。
大きく深呼吸をする時のような、リラックスできる感覚だった。

しばらくして落ち着いた頃、そっと目をあけて上を見ると、優しく微笑む優斗の顔があった。

「こういうの、けっこう照れますね」
「恥ずかしかったよ……こんなこと、どこでおぼえてきたの」
「まぁ、いろいろです」

嬉しそうな、同時に恥ずかしそうな顔で、二人はしばらくそのままくっつきあっていたが、急に優斗は顔を赤くして抱きしめていた腕をほどき、すこしだけはなれた。
微妙に腰が引き気味であることにユウは気づかず、追いすがるように近づく。

「もう、なんではなれるのさー」
「いや、だからえーと」

しばし逃げつ追いつつの攻防を繰り返していた二人だったが、やがてユウは距離を詰めようとして大きく飛び込んだ

すると、勢いあまって押し倒すように二人で倒れてしまった。

ちょうど、優斗の左腕を腕枕のようにしてあおむけに寝転がる。
想像よりも優斗の二の腕はやわらかく、これなら枕にして昼寝もできそうなくらいだと思った。
優斗の顔はすぐ近くにあった。
互いに見つめあううちに、どちらともなく口づけを交わす。
優しく下唇を吸われる。ちょっとくすぐったかった。
1分ほどして、すこしだけ顔をはなす。

「好きですよ」
「うん、私も。 好きだよ」

ちょっとだけ照れながら、そして、ほんとは愛してるって言ってほしいんだけどなぁと、すこしだけ不満にも思いながら、でもしあわせだからまぁいいかなと考えて、ユウは笑った。

竹トンボも回収しに行かなければならなかったが、もうすこしだけ、このままでいたいなと思った。

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