七夕企画提出用 短編SS

【帝國環状線 詩歌藩国 イリューシア駅】

多くの人でごった返す改札前。
星月典子は壁に背預けて人を待っていた。
ちなみに待ち人というのは最近、噂が広まっているネズミの恋人……ではなく、宰相府から避暑に来るヒルデガルドだった。
駅の中央に据えられた大時計をちらりと見やる。
時刻は正午。そろそろ列車が到着するはずだ。
毎日のように電話で話をしているものの、こうして直接に顔をあわせるのは久しぶりのことだった。
最後に会ったのは第七世界時間で一ヶ月、ニューワールドで数えれば一年ほど前になる。
火山が噴火する少し前、ジャスパーやエクウスと一緒に音楽院を訪ねた時だ。
その頃はまだ地熱の影響が強く、詩歌藩国始まって以来の暑さで、最高気温の記録を更新し続けていた時期だった。

あの時は本当に楽しかった。
ジャスパーやエクウスはもちろん、ヒルデガルドにも喜んでもらえたことが嬉しかった。
音楽院の生徒たちの演奏の素晴らしさは、けして忘れないだろう。

ふと気づけば改札前にはずいぶんと人が増えていた。
どうやら環状線の列車が到着したらしい。
やがて人の波が引いた頃、ゆっくりと歩いて来た老婆を見て、星月は大きく手を振った。

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「いやー、ほんっと楽しかったです!」
「初日からずいぶん飛ばしたわね」
「はぅ、すみません……」
「いいのよ。楽しかったのは私も同じだから」

街外れの道を歩きながら、二人は語り合っていた。
ヒルデガルドが駅についてからの数時間、二人はほぼ歩きっぱなしの状態だった。
というのも、久しぶりにヒルデガルドが訪ねてくると聞いて、典子がめいっぱい予定を詰め込んだのが原因だった。
宿泊先に荷物を置いてすぐにソットヴォーチェ見物、続いて噴火後の火山見学ツアー、以前にも見学した音楽院をじっくりを散策し、暑かった時期に繁盛したカキ氷の有名店へ足を運び、時間が余ったのでついでに藩王のいる政庁城へ挨拶にも行った。
二人の様子はまるで、久方ぶりの再開を喜ぶ親友同士のようでもあり、都会に出てきた祖母を連れまわす孫娘のようでもあった。
そのどちらでもないあたりが二人の関係性の面白いところだったが、まぁ、人生というのはまれにそんな不思議な縁を生むものなのだ。

「ところで、次はいったいどこへ向かっているの?」
「それはですねー、いいところです!」
「内緒というわけね。 いいわ、いってみましょう」


気がつけばすっかり日も暮れて、空は橙から藍色へゆっくり染まっていくようだった。
もともと暑くもない気温だったこともあり、日が落ちると長袖でもいいような温度になった。

もう一枚くらい羽織ってくればよかったかなぁ、とジーンズにカーディガン姿の星月は思った。
ヒルデガルドおばあちゃんは夏だというのになかなかの厚着で、厚手の服にケープまでつけていた。
昼間こそ暑そう(とはいえ、汗ひとつかいていなかったけれど)だったが、夕方過ぎまで外を動きまわることを考えると、妥当な服装なのかもしれない。

とうとう日が落ちて夜が訪れた頃、二人は街からはなれた浮遊島へとやってきた。
本島からの最終便を降りて、歩くこと十数分。
広い平原の中に、ひらけた場所があった。

「ここは、神殿?」
「はい。 ウイングバイパー様を祀っている蛇神殿です」

丸く、太い柱のような建物だった。
その柱に蛇が巻きついて、天を目指して昇っているような様子のレリーフが彫られている。
いつの頃から建っているのかわからないほど古い建物だと思えたが、白を基調とした石壁は真新しさを感じさせた。
まるで蛇が古い皮を脱ぎ捨てて脱皮したような、艶かしい美しさがあった。

近づいてみると神殿のまわりがずいぶんとにぎわっている。
どうやら祭りの最中のようだった。

「なるほど。 これを見せたかったわけね」
「今日は七夕ですから。政府側からも援助して、パーッとやろうかなって」

よく見れば、屋台が並んだ合間に葉竹を飾ってあるのが見える。
どうやら参加者が持ち寄った短冊を自由に飾る趣向のようだ。

「最近は、いろいろ大変でしたからね……」

少しだけしんみりとしながら、星月は言った。
異常気象による火山の噴火。
詩歌藩国を襲った未曾有の自然災害が起きたのは、そう古い話ではない。
ヒルデガルドの助言や事前の備え、そして様々な人の努力の結果、奇跡的に死傷者はゼロだったが、国がこうむった被害は甚大だった。

「そうね、大変だったわ。けど」

ヒルデガルドはあたりを見回した。
祭りは多くの人でごったがえしていた。
そこにはいろんな人々がいた。
子供もいた。大人もいた。若者も、老人も、男も女もいた。
そこに共通項は見出せなかったが、ひとつだけ同じなのは、みな一様に楽しげであることだった。

「こうして見ている分には、心配はいらないようね」
「……はいっ」

日中に見てまわった国内でも同じように、そこには人の生きる活気があった。
それは明日を信じる心であり、悲しみを知ってなお微笑むことのできる理由のひとつだった。

「さ、お話はこれくらいにしましょうか。案内はお願いできるかしら?」
「はい、まかせてください! 去年はあっちにおいしい屋台がー……」

二人は祭りの中へと歩き出した。
小さな短冊を手に、ゆっくりと歩き出した。

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