NWの夏2008・小説投稿用 『詩歌藩国の夏に限りなく近いなにか』

詩歌藩国に住む少女、駒地真子。
その大親友である森晴華。
二人はごく普通に出会い、ごく普通に(友達として)付き合いだし、ごく普通に 結婚して……うわなにをするやめr 試練を突破しました。

けれどもすこしだけ人と違ったところがありました。
二人は、遠距離恋愛だったのです――――


/*/


それが鳴り出したのは、突然だった。
私の眠りをさまたげるけたたましいアラーム音。
何回聞いても慣れやしない。
即座に、かつ1ミリの狂いもなく正確に平手を叩き込む。
これで1分は時間をかせげるはずだ。
安心しきった私はもう一度ふとんを被りなおし、とろとろとやってくる眠気を受け入れつつ二度寝の喜びをかみしめようとしていた。
しかし、時間というものは無情なものだ。
60秒間の静寂はあっさりと終わりを告げ、ふたたび鳴りだすアラーム音。
無視してふとんをかぶる。
時計は鳴り続ける。
無視し続ける。
鳴り続ける。
無視、アラーム。無視、アラーム。無視…………

「……ッ、うるっさーーーい!!」

勢い良く立ち上がって目覚ましのスイッチを叩きつけるように切る。
肩で息をしながら諸悪の根源たる目覚まし時計をにらみつけた。
……なにをやってるんだろう、私は。
朝からなんだか疲れてしまった。
深呼吸して心を落ち着ける。
よし、お給料が出たら新しい時計を買おう。
かくして私は街で耳に優しいアラームの時計を探すこと、と心のメモ帳に書き留めたのだった。


/*/


「疲れてるのかなぁ」
しゃこしゃこと歯ブラシを鳴らしながら昨日の作業を思い出す。
久々の吏族出仕だった。

お風呂に入って着替えたところまではおぼえているんだけど、どうやらそのままベットに
アイドレスの中とはいえかなりの重労働。
ある意味、現実の仕事並みに大変だったと言えなくもない。
「ま、おかげでこうして繋ぎっぱなしにできるんだけど」
そう、昨日の出仕でマイルも目標額、一週間接続したままでも足りるだけの額に到達した。
そして今日から一週間はリアル夏休み。
つまり、誰にも邪魔されることなく遊び倒すことができる。
網戸をあけ、サンダルをつっかけてベランダへ。
街の中心からはなれているから、近くに高い建物はあまりない。
おかげで海の上で輝く太陽をゆっくりと眺めることができた。
両手を伸ばして軽く深呼吸。ごみごみした都会と違って、この国の空気はおいしい。
なんだかすごく贅沢をしている気がした。
ちなみにさっきから眺めていた太陽だけど、べつに朝日というわけじゃない。
昨日の夜から沈んでいない、いわゆる白夜というやつだ。
地球は地軸にそって自転している関係で昼と夜が存在するけど、北極や南極では自転してもずーっと太陽が見える時期(この場合は夏)がある、という現象。
夜遅くでも人が出歩いてたりして、まるで時間が止まってしまったような不思議な感覚を味わえるのだ。
日本ですごす普通の夏休みではまず体験できないだろう。
逆にずっと太陽が見えない状態のことを極夜というんだけど、興味のある人はネットで検索してみるといいかもしれない。
この国、詩歌藩国はニューワールドでも最北端に位置している国だ。
イメージとしてはグリーンランドとか、アイスランドあたりを想像してもらうとわかりやすい。
おかげで冬はすごく寒い(ブリザードで外に出られないくらい!)うえに長いんだけど、夏は涼しくて快適にすごすことができる。
つまり、私は夏休みの一週間をちょっとした外国旅行のように考えていた。

そんなことを考えながらしばらく海と太陽を眺めていると、家の前の通りを犬士が二列縦隊を組んで歩いていくのが見えた。
先頭に立っていたのは王犬シィさまだ。
もう夏だというのに、トレードマークの赤いマフラーはきっちりと巻かれていた。
シィさまは国内パトロール(という名の散歩)をするのが日課というちょっと変わったお犬様だ。
基本的にしゃべることはないけれど、言葉は理解しているようで、時々そのつぶらな瞳で語りかけてくる。
『この国の平和は私が守る』とか『安心して遊んでいらっしゃい』とか。身体はちっちゃいけど心はハードボイルド、みたいな。
三頭身ボディのかわゆい姿を見ていると、なんというか、小さい弟ががんばっておねーちゃんをまもるよって感じがして和むんだよね。

「パトロールがんばってー」

声をかけるとこちらに振り向いて手を振ってくれた。
こちらもひらひらと振りかえす。思わず頬がゆるむ。
うーん、かわいいなぁ。
誰かぬいぐるみとか作ってくれないかな。発売されたらぜったい買うのに。

「っと、もうすぐ時間ね」

壁の時計を確認しながらひとりごちる。
そろそろ彼女が到着する時間だ。
夏の坂道、自転車を一生懸命にこぐ。こぎつづける。

「おばちゃーん、いつものちょうだい」
「はいよ。まこちゃんは朝から元気だねぇ」
「あはは、それだけが取り柄ですから」
軽く挨拶をかわしながらいつものBLTサンドを受け取る。
新鮮な野菜とベーコン、そして純国産の小麦でつくったバンズが絶妙にマッチした私のお気に入り。これが2わんわんは間違いなくお買い得だろう。
「今日から夏休みだって言ってたけど、どこかお出かけかい?」
「ううん、今日はこれから空港。友達が帰ってくるから」
「男かい?」
「残念、女の子」
「そりゃたしかに残念だ。男ができたらちゃんと報告するんだよ」
おばちゃんはニヤリと笑いながら
「どんなやつかテストするからね」
とのたまった。
うーん、今のところそういう予定はまったくないんだけどな。
「えーと、まぁそのうちね」
とりあえず、あいまいに笑ってごまかすことにした。アイアムジャパニーズ。
「あ、もうこんな時間だ!それじゃおばちゃん、またきます!」
シュタッと手を振り上げ、振り切るように一気にペダルを踏み締める。
「おまち!まだ話は終わって……」
あーあー、なんにも聞こえない。全然まったく聞こえない。よぅしオッケィ!

気がつけば道はゆるい下り坂になっていた。
あるおばちゃんの屋台が好きなのは、この立地条件にも理由がある。
丘の上にあるこの場所からは、国中が見渡せるのだ。
左手には神話にも出てくるシュライオン山脈。
右手には、最近になって公共の温泉施設になった大きな湖、サファイアラグーン。
真ん中には王都イリューシアの整然とした町並みが広がっている。
山脈と街のあいだあたりには神殿と、青々とした草原が見える。
見上げればどこまでも続く青空。
まっすぐ前を見れば、海と空のまじわる地平線があった。
ここでさっき買ったBLTサンドを取り出す。
このとびっきりの風景を眺めながら食べるおばちゃんのサンドイッチは、また格別なのだ。
私はゆっくりと坂道を下りながら、世界で1番贅沢な朝食を味わった。

/*/

「うーん、いないなぁ」
ロビーになだれ込んでくる人波に辟易して、ベンチに腰をおろす。
どうやら彼女はまだ到着していないようだ。

ここは詩歌藩国で唯一のエアポート、イリューシア空港。
なぜ唯一かと言えば、移動手段として飛行機が奨励されている関係で、小さな飛行場は国中にあるけれど、国際便が離発着するのはここだけだからだ。
ちなみにこの国では車より飛行機のほうが普及している。
理由はすごく簡単で、冬に降り積もる雪で車が使えなくなってしまうから。
真冬になると、大人がすっぽり埋まっちゃうくらいの高さにまでなる。
だから、無理に車を走らせるよりも飛行機を飛ばしたほうが安上がりってわけ。
それでも問題がないわけじゃない。
ブリザードがふぶけば飛行機だって飛べなくなる。
この空港だって、フライト時間の遅れなんかはしょっちゅうだ。

まぁ、話はそれたけど、今日は晴れてるし飛行機の遅れじゃないみたいだなってことを言いたかったんだ。

その時、人ごみの中に見知った彼女を発見した。
「……あ、いた。晴華ちゃーん」
小さく手を振って合図する。振り返してきた。

森晴華。
第五世界に住む私の親友。
整備士として詩歌藩国で働いていたんだけど、いろいろあって今は宰相府で絵の勉強をしている。
お盆の時期は技族養成学校もお休みということで、しばらく帰省することになったんだ。


/*/


国道をはずれて、脇道を通る。
小麦畑のあいだにつくられたあぜ道だ。
このあたりは地元の人間しか知らないし、車もほとんど通らない。
ゆっくり話をするにはうってつけの道だった。
「もうすっかり夏ですね」
「そうだねぇ。宰相府はうちより暑いけど、大丈夫?ちゃんとご飯食べてる?」
身体が弱いという話は聞いたことないけど、やっぱり夏バテは心配になる。
風景画を描くからって炎天下の中を水分も摂らずにスケッチ、とかやってそうだし。
「大丈夫ですよ、ちゃんと食べてますから。でも」
そう言って、晴華ちゃんはなんだか嬉しそうに笑った。
「真子ちゃん、うちのお母さんみたい」
「そ、そうかな?」

うーん、たしかに友達と呼ぶよりは家族とか、そんな感じが近いのかもしれない。
普段は会えないから、なにをやってるのか心配になることはよくある。
大学合格を期に上京した妹を、田舎で気遣う姉といったところだろうか。

「ところで、滞在先は用意してありますって手紙に書いてあったんですけど、真子ちゃんは場所とか聞いてますか?」
「あ、あーそれなんだけどネ……」


/*/


今、私は晴華ちゃんを滞在先のマンションの前に来ていた。
見覚えのある、というか今日の朝に見た場所だ。
当然だろう。つい数時間前までベランダで歯をみがいてたんだから。
私の部屋は303号室。
彼女の部屋は304号室。
思いっきりお隣りさんだ。
もちろん誰にでも出来ることじゃない。
詩歌藩王と星月摂政のしわざだ。

数日前、チャットで夏休みの話をしていた時のこと。
夏休みに森さんと会うんですーと話したら、みょうな笑顔を浮かべて
「ちゃんと準備しておくから」とか「夏休みの思い出づくりは大切ですからネ!」とか言っていた。
その時はてっきり冗談だと思っていたのだが、彼女の滞在先を知った時に二人が本気であったことを思い知った。
この場合、怒るべきか感謝すべきかは微妙なところだろう。
「おとなりだったんですね」
「うん、その、ごめんね?」
「いえ、気にしてません。いいじゃないですか、近いほうが遊びに来やすいし」
嫌かなと思ったけど、あんまり気にしてないみたいでちょっと安心した。
よくまわりから言われるけど、気のまわしすぎだったかなぁ。

その後、お互いに別れて部屋に入り、荷物を片付けたりしていたら、けっこう時間がたってしまった。

せっかくだし一緒にご飯をと思い、お隣りさんのチャイムを鳴らす。
はーい、とすぐに返事が返ってきた。
「はい、どうしたんですか?」
「うん、ごはんまだだったら、一緒にどうかと思ってね」

/*/

「では、いただきまーす」
「いただきます」

今日のメニューは乾燥トマトと玉ねぎのスープ、ジャガイモとサーモンのミルク煮、羊肉のソーセージ。それからカリフラワーの酢漬けに、〆のデザートはルバーブの砂糖煮だ。

「主食はないんですか?ごはんとか、パンとか」
「うん、今日は簡単にすませちゃったからね」

明確な主食はないけれど、ミルク粥やライ麦のパンなんかを食べる。
その辺はそれぞれの好みでいろいろと変わるところだ。
私の場合、リアルではそうお目にかかれないので塩で味付けしたミルク粥なんかをよく食べたりする。

こうしてみるとわかるけど、詩歌藩国の食事スタイルは北欧風だ。
味付けは全体的にシンプルで、いわゆる素材の味を生かしたものが多い。
もともと新鮮な食材ってこともあるんだけど、胡椒なんかのスパイスを輸入に頼っていることが一番の理由。
代わりにハーブ類がよく使われていて、寒い時期は野菜不足解消も含めて各家庭に乾燥ハーブなんかが常備されていたりする。
ちなみにオススメはバターとかヨーグルトとかの乳製品と、ラム肉。
牛乳は輸出するほどではないけれど、国内でまかなう分には十分な量がとれている。
臭みが少なくて(それがたとえバターでも)脂っこくないと評判なんだそうな。
まぁ、たしかに蜂蜜をたっぷりかけたヨーグルトなんかをはじめて食べた時はとんでもなく濃厚な味で、私の中ではちょっとした革命だった。

そして国で一番おいしいのは羊の肉だ。
夏の間、野に自生しているハーブを含む草を食べた羊たちは臭みが少なくて生でもおいしく食べることができる。
普通は寄生虫の心配なんかがあるんだけど、寒冷な気候のおかけでそんな問題もまったくなく口にすることができるのだ。


ソーセージをひとくちかじる。
うん、練り込まれたハーブがさっぱりしてていい味だ。
続いてサーモンのミルク煮をつつこうとしたら、なぜか視線を感じる。
目を向けると、晴華ちゃんが箸をもぐつきながらこちらを見つめていた。


「……どうかした?」
「あ、いえ、その」
あわててあかくなりながら視線をそらす。
「なんだか、すごくおいしそうに食べるなぁ、と思って」
「………」
うーん、ものを食べてる自分の顔なんて見たことなかったけど、そんな風に見えるのか。
自分で言うのもなんだけど、今日の料理はなかなかうまくできたと思うから、うれしそうなのはあるかもしれない。
けど、それよりも
「私は、おいしく食べてもらうほうがうれしいかなぁ」
と、言ってから気づいたけどもしかしてすごく恥ずかしい告白をしたのではあるまいか。
あんのじょうテーブルの向こう側に座った晴華ちゃんはすでにゆでだこ状態だった。
「た、食べてます!大丈夫ですおいしいですから!」
「あはは。うん、おかわりもたくさんあるからねー」
空になっていた皿を受け取ってスープをよそう。
はい、とそれを渡すとなんだか思い詰めたような顔をしたまま黙ってしまった。
心配になって声をかけようと思ったら、席を立っていそいそと隣へやってくる。
どうしたの?と声をかける前に抱きしめられてしまった。
「え、なになに?」
「真子ちゃんはいいお嫁さんになれます」
人目がないとはいえぎゅーされるのはやっぱり恥ずかしいなぁと思う自分がいた。

夕食のあと、洗いものを二人でてばやく片付けてまったりとテレビを見る。
チャンネルをまわしていると、ちょうどキャプテンタルクの再放送をやっていた。
キャプテンタルクは、最近ニューワールドで流行りのアニメだ。
ビギナーズ王国に住む少年、タルクがグランパとの出会いをきっかけに宇宙へと旅立つ大冒険活劇だ。
毎週ハラハラドキドキの展開がうりで、大辛合体バンバンジーと人気を二分するのでは、と言われるほどに注目を集めている。
どうやら放送しているのは、初心級宇宙艦が何者かによって攻撃される回のようだった。
たしかこの回のタルクガール(某スパイ映画に出てくるやつと同じようなものだ)は詩歌藩国出身の少女だったはずだ。

「キャプテンタルクですね」
「知ってたんだ」
「宰相府でも人気ありますから」
そう言って隣に腰を下ろす。
しばらくはほとんど会話もなく、二人ともキャプテンタルクに熱中していた。
CMに入ったのを見計らってあわてて台所へ取って返す。
たしか引き棚の奧に……あった、とっておきのお煎餅。
煎餅をかかえたままいそいそと居間へと戻る。
「あ、お煎餅」
「たまにはいいよねー」
間食はよくないけど、今日くらいは大丈夫だろう。
晴華ちゃんもまったくの同意見のようで、にこーと笑いながらつまみはじめた。
ほどなくしてCMが終わり、後半の放送が始まった。
ぽりぽりとお煎餅をかじる音と、テレビから流れる音だけが響く。
15分ほどたって、EDと次回予告が流れて放送は終了した。
「やっぱりおもしろいなぁ、キャプテンタルク」
「何回見ても飽きないですね」
「そういえば、もうすぐ劇場版やるらしいよ?」
「いいですね、こんど見に行きましょうよ!」
と、しばらくたわいもない会話を続けていると、あるものが目に入った。
オレンジ色の表紙のスケッチブック。
私のじゃない、彼女の持ち物だ。
彼女は宰相府に招かれるだけあってすごく絵がうまいんだけど、恥ずかしいのか描いたものはあまり見せてくれない人だった。
私はもし機会があれば、いつかスケッチブックの中を見たいなと思っていた。
「ね、スケッチブック見てもいいかな?」
「え、それは……」
やっぱり恥ずかしさが先に立つのかしばらくうつむいたままだったが、小声でいいですよ、と許可が出た。
ちょっとだけ気がとがめたけど、最後には好奇心が勝利をおさめた。
スケッチブックをめくっていく。最初の数ページは風景画が多かった。
というか、どこまでいっても風景画だ。あとは模写とおぼしき名作の絵のみ。
そういえば人を描くのが苦手だったなぁ、と思いながらページをめくっていくとようやく人物画を発見した。

でてきたのは秘書官服をまとった男性。よく見たらtactyさんだった。
…………はっ。
いかん、10秒ほど思考停止してしまった。
ぎぎぎ、と油の切れたロボットみたいに首をまわし、なんで?と顔でうったえる。
顔を赤くしてうつむく晴華ちゃん。
え、でもお見合いは中止になったんじゃ……ダメだ、頭が混乱してる。
「どうですか?うまく描けてますか?」
いや、相変わらずうまいんだけど、むしろ問題はそこじゃなくて。
くそうなんでこんなくやしいんだ私は。
「えぇと、うまいけどなんだか美化されてる気がする」
するとなぜかショックを受けたような顔で(擬音でいうところの ガーン! というやつだ)
「変ですか!?」
ううう、なんでそんな悲しそうな顔をするんだろう。
やっぱり宰相府で何かあったんだろうか。
いや、きっとそうだ。
tactyさんは詩歌藩なんて片田舎からでてきたいたいけな少女をちょっとかわいいからってあの手この手でたぶらかしてメロメロにしたんだろう。そうだ、そうに違いない。なんとかしないと。こういう時は110番?いや119番だったっけ?


「あの、大丈夫ですか?」
「あ、うん。私は大丈夫。それより」
「?」
きょとんとして、ことの重大さをまったくわかってなさそうな顔でいる彼女が不憫だった。
やはり本人に直接聞くしかない。
ごめんね、辛いかもしれないけど全部あなたのためだからっ。

「tactyさんに、なにをされたの?」
「……え?」

しばらく間があって、なにか思いついたようにスケッチブックを覗いてくる。
tactyさんの描かれたページを見て合点がいったようで、クスクスと笑いはじめた。
「私が言ってたのは、こっちですよ」
次のページを開くと、そこには私が描かれていた。
微笑んでいる様子はすごく優しくて、なんだか自分じゃないみたいに見えた。
よく見れば背景に紅葉と滝がえがかれていて、それでこの絵がいつのものかようやくわかった。
「秋の園で描いてた絵だね」
「はい」
あぁ、勘違いでよかったという気持ちとか、あの時の絵をわざわざ見せてくれたんだなーって気持ちとかがないまぜになって、出てきた言葉は
「ありがとう」
と、ただそれだけだった。
だけど私の言いたいことはちゃんと伝わったようで、彼女はとても嬉しそうだった。
それから私達は一晩中おしゃべりをしてすごした。
今日という時間が過ぎていくのを惜しむ様に、ずぅっと話し続けた。
この国のこと、宰相府のこと。最近のこと、昔のこと。いいことも悪いことも。

夏休みは、まだ始まったばかりだった。



/*/



スズメのさえずる声が聞こえる。
ぼんやりする頭で考える。なんで床で寝てるんだろう?
昨日はたしか夜遅くまで話しこんでいたはずだ。
で、途中で飲み物が尽きて蜂蜜酒を取り出したはず。
その後は……よく思い出せないけど、たぶん酔いつぶれたんだろう。

それにしてものどが渇く。水が飲みたい。
とりあえず台所へ行こうと立ち上がりかけて、それに気づいた。
横を見るとそこにはすやすやと眠る晴華ちゃんがいた。
正直、おどろいた。てっきり帰っているものだと思っていたから。
この様子だとそのまま一緒に酔いつぶれて眠ってしまったというところだろうか。
「んん……」
けだるそうに寝返りをうつ。起きる気配はなかった。
なんだろう、滅多に見れないものを見てしまっている気がする。
静かに、ただ静かに寝入っている。
人が寝てるのを見るのって、なんでこんなにドキドキするんだろう?
こう、胸の奥がムズムズするような、不思議な感覚。
「こういうの見てると、ついつい手を出したくなるんだよねぇ」
ためしにほっぺをつついてみる。
ちょっと嫌そうに顔をゆがめて首をひねった。なんだか赤ちゃんみたい。
鼻のあたまをくすぐってみる。
くすぐったそう。

そうしてしばらく遊んでいると、ついに目を覚ましてしまった。
むくりと起き上がって目をこすっている。
「おはよう、ございます」
「あ、おはよう」
どうやら色々と遊んでいたことは気づかれなかったらしい。あぶないあぶない。
何食わぬ顔で挨拶を交わし、私は朝食の支度を開始した。


/*/


雲ひとつなく晴れ渡る空。吹き抜ける風が心地いい。
朝ごはんを食べてから、私たちは湖へとやってきていた。
ここにいる水竜を見学するのが今日の目的だ。
竜といっても、この国に住んでいるのはいわゆるファンタジーな意味でのドラゴンとは違う(そういうのも探せばいるかもしれないけど)。
機械仕掛けの多足歩行戦車、機竜だ。
基本的にはI=Dと同じようなものなんだけど、ちょっとだけ違うのはAIが搭載されていて、個体ごとに自分の意思を持っているということ。
簡単な会話くらいはできるし、乗り手がいなくても自立行動が可能なんだ。
ボディが鋼鉄であることをのぞけば、普通の生き物となんら変わらない。
今までは地上での行動が主だった地竜しかいなかったんだけど、今度はそこから水中での行動に特化した水竜を開発することになった。
その開発現場がここ、サファイアラグーン湖というわけ。
ちなみに、普通なら機密事項になるはずの開発中の水竜をおおっぴらに公開しているのは、ひとえに藩王の意思によるところが大きい。
この国を治める詩歌藩王は第七世界人にはよくあるように、平和主義者の博愛主義者で、竜は友であると言ってはばからない人だ。
戦争が終わったら竜は非武装化して国でゆっくりしてもらいたいともよく言うけど、どこまで本気かはわからない。
TLO問題で竜が危険視されている今でも、その姿勢を崩す気はまったくないらしい。
そんな人だから、絢爛世界出撃に向けて水竜開発が決まった時も
「まぁ、わざわざこんな田舎まで敵情視察に来るのは緑くらいのものでしょう。開発の様子は公開でいいですよ」
と、そんな調子で一般公開が決まったのだった。
実際、水竜は開発当初から巨大化が見込まれていたから、大きな実験場を確保するためにもこれでよかったのかもしれないけど。

「大きな湖ですねぇ。地平線が見えますよ」
「国で最大の湖だからね。えーと、たぶんそろそろだと思うんだけど」

目当てのものを探して湖を見回す。
すると、水中からしぶきを上げながら巨大な頭が飛び出てきた。
いや、よく見るととてつもなく首が長い。
首長竜タイプの水竜だった。
水竜はじーっとこちらを観察してから、おもむろに首を曲げて頭をこちらへ近づけてきた。
目線が同じくらいになる。
「よしよし、いい子ねー」
鼻の頭をなでながら、私は研究所でもらっておいたあるものをカバンから取り出した。
「それ、なんですか?」
「燃料ペレット。この子たちのごはんなの」
黒くてつぶつぶしたセラミックを、水竜の口の中めがけて放り投げる。
彼女にも半分渡して一緒に餌付けをする。
しばらくすると他の竜たちも近寄ってきた。
みんな姿はバラバラで、魚のようなものがいるかと思えばヘビっぽいものもいた。
おそらく、まだデザインの決定がされていないんだろう。
各形態で性能比較をして、決定稿が出るのはそれからだ。

晴華ちゃんはそれぞれに餌を与えながら、なでたり声をかけたりして遊んでいる。
その楽しそうな姿を見て嬉しい反面、後ろめたい気持ちもあった。
少し調べればわかることだが、燃料ペレットとは原子炉の核燃料なのだ。
もちろん機竜の体内に原子炉があるわけではなくてもっと安全な装置があるのだが、それでも劣化ウランを手でさわっていると知ったらいい気はしないだろう。
水竜には新式のパラジウムリアクタが取り付けられるといわれているが、開発は難航しているようだった。



/*/



なんとなくやましい気持ちのままその日は帰路についた。
落ちそうで落ちない夕日は、私の沈んだ心を表しているようで嫌だった。
話かけられても上の空で、なんだか申し訳なくなってきた。
本当に小さなことで、人の気持ちはころころ変わる。
きっかけはささいなことでも、本人にとっては大きな変化だったりするものだ。
それがいいのか悪いのかはわからないけれど、少なくとも今はあまり良くはなさそうだった。
「元気、出してください」
「……え?」
ふと横を見ると、心配そうな晴華ちゃんの顔があった。
「どうして落ち込んでるのかはわからないですけど、私でよかったら、その」
すぅ、と息を吸い込んでひと言
「お手伝いしますから」
目を見つめられたまま、大真面目にそう言った。

私は嬉しいのか、恥ずかしいのかもよくわからなかったけど、急に泣きたくなった。
なぜだか救われたような気がした。
「うん、ありがと」
私はちょっとだけ泣いて、それから彼女をぎゅーした。思いっきりした。
暖かくて、やわらかかった。

この先、何があっても私は彼女を助けて生きていこう。
そう、心の中でつぶやいた。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

風俗
2009年01月24日 19:06
バイト感覚で参加OK、無店舗型風俗での男性会員様をただいま募集中http://www.sinobaida.com/
在宅バイト
2009年01月25日 11:37
お暇な時間ができる方は時給1万円の在宅バイトでお小遣いを簡単に稼いでくださいませhttp://host.amorous-love.net/
エッチ
2009年01月26日 11:50
診断結果によっては携帯で見れる無料エロ動画プレゼントhttp://www.yotubashi.cn/
メル友
2009年01月28日 11:53
無料エントリー可能、直メ直電交換可能の安心仕様のMフレンズhttp://www.inkstone-cn.com
熟女
2009年01月29日 14:51
お金で性欲を満たす熟女を癒して報酬を得ませんかhttp://sefure.j76tk8.cn/
在宅バイト
2009年01月31日 11:48
無料エントリーを済ませれば女性会員にプロフ一括送信で即収入可能http://zaitaku.k567ke.cn/
熟女
2009年02月03日 16:34
風俗の男性版のお仕事に興味のある方はぜひ当サイトへhttp://www.westmamed.net/
家出少女
2009年02月07日 15:30
切羽詰まり、割り切りで体を差し出す少女もいますのでぜひお早めにhttp://sos.3q4hg.cn/
オナニー
2009年02月08日 11:53
人妻のオナニーを見て謝礼をGETしてみませんかhttp://www.qlime.org/
パーティ
2009年02月09日 10:51
パーティや合コンなど大勢でやっても大ウケ、無料3分診断受付中http://hhh.sbn456j.cn/
ラブラブ
2009年02月19日 11:05
ご近所の恋人、友達、メル友を探す女の子と無料で遊べるhttp://pure.dh8v3.cn/
風俗
2009年02月21日 17:44
一晩の逢瀬で謝礼10万円と夢のようなアルバイトに参加してくれる男性を募集http://ok.bnv039qgh.cn/
エッチ
2009年02月23日 10:27
エッチ度をズバっと診断、エッチ度チェッカーhttp://ok.gn835g.cn/
小遣い稼ぎ
2009年02月26日 10:11
逆援助交際で新しい出会いと新しいビジネスhttp://ok.dngoq34g.cn/
モテる
2009年03月02日 12:20
モテる度チェッカーただいま無料診断受付中http://ok.je5dnj43h.cn
オナニー
2009年03月03日 17:35
見るだけで3万円、お手伝いで5万円の謝礼http://ok.3b6yj57.cn
セフレ
2009年03月04日 14:32
セレブな女性の集まるセフレ探し会員制サークル、セレブラブhttp://ok.35h57k.cn
家出サイト
2009年03月08日 11:22
長期宿泊、食事つきならエッチOK家出少女http://ok.gq32h.cn/
エッチ
2009年03月09日 12:14
携帯からでもOK、エッチ度の無料診断http://ok.ng834g.cn/
ホスト
2009年03月18日 11:29
恋人代行や性交渉アリの期間限定恋人など、素人ホスト募集中http://ok.fg24g.cn/
無料ゲーム
2009年03月23日 16:55
あなたのゲーマー度を無料ゲーム感覚で測定しますhttp://www.tlgy.org/
出張デリバリー
2009年04月04日 13:25
女性向け風俗サイトで出張デリバリーホストをしてみませんかhttp://ok.jg8q03.cn
高額報酬
2009年04月09日 12:41
一晩限りの恋人契約で高額報酬http://ok.w3vr.cn
セレブ
2009年04月11日 16:10
割り切りお付き合いで大金を稼いでみませんかhttp://ok.rwhvtw.cn
お金稼ぎ
2009年04月14日 16:45
手軽にお金稼ぎが出来るサイトhttp://ok.urmi6.cn
sora
2009年04月17日 15:20
最近ネット始めたsoraでぇす♪もしよければ誰かお友達になってくださぁい mikumiku_0430@yahoo.co.jp
競馬予想
2009年05月01日 11:42
GW特別企画今だけ天皇賞・春の鉄板激アツ情報を配信中!http://www.aveureka.org/
ゆか
2009年05月18日 16:49
誰か割り切りでアタシを満足させてもらえませんか? c.dior_l-3-l_la.al@docomo.ne.jp
めぐみ
2009年05月22日 11:29
大人の男性と一度付き合ってみたいんですlouis-vuitton_l0o0l@docomo.ne.jp
りょうこ
2009年06月05日 11:34
ホントに会える人限定で募集します☆メールくれたら何回かやり取りして会いませんか?メール待ってます♪ lh.hl__lu.ul@docomo.ne.jp
みぃ
2009年06月12日 11:25
これから雨の日が続きそうだけどドライブ付き合ってくれる人探してます!メールください♪ kyon-i@docomo.ne.jp
りおな
2009年06月19日 11:30
友達はみんなカレシと一緒でかまってくれません…アタシと遊んでくれる人メール下さい☆ a.a-mai@docomo.ne.jp
りこ
2009年07月03日 12:17
優しくリードしてくれるような大人の男性に憧れます。 ayu-cha@docomo.ne.jpよかったらメールしてみてください。
まみ
2009年07月10日 11:36
サクッとあって楽しみませんか?よかったら軽いプロフ付きでメール下さい☆ d.k.y.1205@docomo.ne.jp
あいり
2009年07月17日 12:31
最近仕事ばかりで毎日退屈してます。そろそろ恋人欲しいです☆もう夏だし海とか行きたいな♪ k.c.0720@docomo.ne.jp
競馬生活
2009年07月17日 18:41
今年のアイビスサマーダッシュ(GⅢ)の激アツ穴馬がコイツだ! http://rank.getuby.net/
競馬予想
2009年07月19日 16:46
買い目が無料で見れる!超一流の的中率を貴方様は目のあたりにする事になるでしょう。 http://keiba.iwatukisan.net
競馬情報
2009年07月25日 21:54
馬主から仕入れた勝ち確定の競馬情報をお届!裏だけある真実を掴みませんか http://keiba.kawamoebbs.net
勝てる競馬情報
2009年07月26日 11:29
情報を制して混戦を勝ち取る!最新競馬情報を無料発信!勝ちを体感してください http://keiba.king-kg.net/
なみぽむ
2009年07月31日 11:48
ホムペ完成記念!私の事みんなに知ってもらいたくて頑張りましたぁ。 fan.jna@docomo.ne.jp
競馬生活
2009年08月09日 12:46
レース前に入手した最新競馬情報を公開!
関屋記念の狙いどころを完全に押さえております。
この理由を聞けば納得の情報と思う事間違いなしです。 http://rank.getuby.net/st/
なちゅ
2009年08月14日 11:37
プロフ作成記念に嬉しくなって写メも載せちゃいましたぁ。できればメールの方に感想なども欲しいなぁ!夏休みなので暇してます。natu.no.natuyasumi@docomo.ne.jp
えりりん
2009年08月21日 11:30
テンション上がって顔出ししちゃいました。メアドのっけてるからご感想を待ってますぅ。sukisukidaisuki123@docomo.ne.jp
詩音
2009年09月05日 11:42
メガネ買って嬉しかったから写メ更新しましたぁ!みんなの意見も聞かせてください。glitter.princess@docomo.ne.jp

この記事へのトラックバック